フルートとハープのための協奏曲ハ長調

k299

第二楽章アンダンティーノ

頬杖の

忘らるる

春の暮

●モーツァルト全作品に、このフルートとハープのための協奏曲がなかったとしたら、どんなに寂しいだろう。名曲が目白押しのモーツァルトの作品からベスト10を挙げると人にアンケー卜されて、私が一番悩んだのはこの曲のことだ。ちなみに楽しく悩みながら選んだベスト10を挙げてみる。①クラリネット五重奏曲②「フィガロの結婚」③「魔笛」④「アベ・ヴェルム・コルプス」⑤ピアノソナタK331⑥「コシ・ファン・トゥッテ」⑦十三管楽器のためのセレナーデ までは不動で、直ぐ選べたが、後は誠に難渋した。とりあえず⑧シンフォニ一二十九番⑨クラリネット協奏曲⑩ピアノ協奏曲第二十七番 としたが後ろめたい思いだった。フルートとハープのための協奏曲もオーボエ四重奏曲も六つのレントラー舞曲もピアノ協奏曲第二十二番もヴァイオリン・ソナタの幾つかもヴァイオリンとビオラのための協奏交響曲も入っていないことに気がついた。遂に決めかねて私だけ番外に⑪を加えてもらってフルートとハープのための協奏曲とした。モーツァルトの短調作品やレクイエム、それに「ドン・ジョヴァンニ」を拒否したのが特徴といえばいえるだろうが。ここでは詳述しない。私はこのフルートとハープのための協奏曲のアンダンティーノを偏愛している。モーツァルトの作品の中ではクラリネット五重奏曲の次に呆れるほど聞いても飽きない。そしてレコードやC・Dの数も50を超える。その尋常ではない惚れ込みようの理由は「行く春を―モーツァルトと芭蕉―」で述べているので参照されたい。
●この曲のモーツァルトが作曲したカデンツァは、紛失して現存しない。それゆえこの曲の演奏の力量は、演奏者たちのカデンツァで試されることになる。そういう意味でも、ことに二楽章に関しては、やはりランパルのフルートとラスキーヌのハープがベストだろう。特にラスキーヌの短いソロで始まるカデンツァは、好演の多い他の盤でも、決して味わえない典雅な響きで、憂愁に溢れ絶品である。他にシミオン・スタンチュのパン・フルートによる演奏は、あの素朴な楽器から、信じられないほどの音楽性を引き出した特筆すべき好演奏である。
●季語は「春の暮」。昔は春の終りを意味する。「暮の春」と同じだったが、しだいに春の夕暮れと混用され、ついに春の夕暮れに定着した。しかし句によっては両義を兼ねて暖昧に使っている場合もある。私の句は上記芭蕉句との関連から、両義的に詠んで欲しい例である。もっとも「行く春」は、「暮の春」と同じだが、言葉のうちに哀惜の心が潜んでいる。

いずかたも水行く途中春の暮  永田 緋衣

鳴呼という枕在りけり春の暮  河原 枇杷男

33cm x 33cm
1999年