ピアノのためのアレグロ

ハ長調 k9a

治癒美人

大礼服を

虫干しす

 

●すべての神は言う、「如何なる病も癒される」と。「信じて祈れば救われる」と。太古の昔から、神や神々のカによって奇跡が起こり、病める人々が救われ、治癒されたであろう「出来事」を理解し、その事実を私は疑わない。
しかし、信じなければ存在しない神を、私は信じることが出来ない。それ故、モーツァルトの音楽によって、私の身の上に起こった「出来事」、頑固だった「離人神経症状」が一挙に治癒したことは、恐らく、次のようなことを意味すると想われる。それは、神をも生み出したものの、「現れ」であると。この「現れ」は、なおも神的な領域に留まってはいるものの、あらゆる有神論とは似て非なる、「無」の「現れ」であると。
●「モーツァルトを科学する」の著者アルフレッド・トマティスによればモーツァルトの音楽は多くの国で、難聴者や心因性障害者の福音となっているという。彼に依ればモーツァルトの作品が、どの作曲家よりも治癒力があるのは、一貫して人間の生理機能を活発にさせ、エネルギーを放出させ、宇宙との一体感を味わえるからだという。そしてカナダでの実験で、ある種の植物にも、モーツァルトの音楽を聴かせると、成長に良い結果が生まれたこと、ブルターニュ地方の修道院の乳牛にモーツァルトのシンホニーを聴かせたところ、普段より質の良い乳が出るようになったことを報告している。
●1762年10月15目、6歳のモーツァルトは、姉のナンネルと共にオーストリア女帝、マリア・テレジアから大礼服を賜った。この名誉ある大礼服を、モーツァルト家の人々は大切に保存していたに違いない。ザルツブルグは雨が多い地方である。翌1763年の夏に作曲された、「ピアノのためのアレグロ」を、エリック・スミスのチェンバロで聴きながら、7歳の幼い治癒美神モーツァルトが、母のいいつけで、大礼服の虫干しを手伝った、ある晴れた日の、ザルツブルグに吹くロココの風の匂いに、思いを駆せてみた。
●季語は「虫干し」。夏の盛りの土用晴天の日に、衣類、書画、薬物などを曝し風を入れ虫を取り除くことで、このことから虫干しという。古来からの年中行事である。

虫干しの青き袖口たたまれし  高野  素十

見おぼえの父の印ある書を曝す  佐藤  信子

紙本墨画 着彩

33cm x 33cm
1999年